[Chapter.01-2 光]


  次の日になっても、「人を殴った」という気分の悪さはなくなっていなかった。そのせい
  なのか、結局眠ったのは深夜4時頃。 目が覚めたのは8時近くだった。それに、朝か
  ら吐き気がする。耳鳴りもひどい。
  こんなにも気分の悪い日は初めてかもしれない。自然と嫌な予感ばかりして、外に出
  ることさえ嫌になった。
  しばらく窓を開けて空気を換気して横になったままぼーっとしてると、 少しだけ吐き気
  は和らいだ。 しかし、耳鳴りは良くなるどころか、よりひどくなってきている。 頭に突き
  刺さるような耳鳴りとは思えないほどの痛むような音が眠ることさえも妨げた。
  ふらふらしながら階段を降り、冷蔵庫まで辿り着くと、手探りでスポーツ飲料水の入っ
  たペットボトルを手に取って残っている分を飲み干した。
  一息ついて、畳に倒れこんだ。それでも耳鳴りはまだ治らず、次第に頭痛へと変わっ
  ていく。
  しばらく目をつむったまま体の力を抜いていると、その暗闇の中に一筋の光が見えた。
  目を開こうとしたが、まぶたが重く、開くことができない。光は少しずつ大きくなり、
  やがて自分に吸い込まれるように光は消えていった。


  今日というものが不気味だと思ったのは初めてではなかった。しかし、こんなにも1日
  を生きるということが苦しいと思ったのは初めてだった。

  光が消えたのち、頭痛も耳鳴りもおさまり、体は楽になっていた。
  開かなかった目も正常に戻り、さっきまでのことが幻のようだった。
  朝からひどかった吐き気と耳鳴り・・・そして、最後に見えた光はなんだったのか。
  訳のわからないことが立て続けに起こったが、 今は楽になったという安心感だけがあ
  った。

  廊下へ出て店を覗くと、父親は常連とまではいかないが、よく来る客と話をしていた。
  自分の部屋に戻り、開いたままになっていた窓を閉めた。
  メールがきているのに気付き、携帯電話を手に取った。


  「華尖駅」とかすれた字で書かれた板の横にある時計は午後2時ちょうどを示している。
  肩にのしかかって重いギターを改札口前の柱に立て掛け、 准一も同じ柱に寄り掛かっ
  た。
  10分もしないうちに2人が准一の前に姿を現す。
  准一は、この2人と一緒にバンドを組んでいた。准一がヴォーカルとギター。ベースケー
  スを重そうに持っているのが神楽翔。もちろん、ベース担当。ドラムが高杉隼人。
  さっきのメールは翔からで、スタジオで練習しようというものだった。
  駅前にあるスタジオ「little music」に入った。

  准一にとって、 歌ってギターを掻き鳴らしている時間が一番「生きている」と実感できる
  瞬間。胸が熱くなって、生きていることが楽しいと思える。
  もし音楽というものがなかったら、待っていたのは死だろう。おそらく、精神的にもたなか
  っただろう。




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